お口は、人が生きていくうえで最も重要となる、4つの働きを担っています。
食べる・呼吸する
食べること・呼吸をすることは、生き物が生きるために無くてはならないことです。お口は、体全体の機能を正常に働かせるために必要な、栄養・エネルギーの入り口であり、味覚や歯から“おいしい”を感じ取り心を豊かにする場所でもあります。
多くの方は、毎日好きなものを好きなように食べられることと思います。しかし、加齢や疾患により噛む力や飲みこむ力、食べ物を口まで運ぶ力が衰え、食べるものが限られたり、食べられなくなってしまうことがあります。また、人は飲みこむ時に瞬間的に息を止めることで気管へ流れるのを防いでいるのですが、呼吸をコントロールする力が衰えてしまうと、むせや誤嚥(ごえん)を引き起こし苦痛に感じてしまうこともあります。
当たり前のように毎日行っている、『お口でしっかり食べられること』『お口から自然と呼吸ができること』というのは、人が意欲的に生活していくために、とても大切なことなのです。
話す・表情をつくる
人は動物と違い、言葉を話し表情で相手に意思を伝えることができます。その際、重要な役割を担うのが口です。口は舌・ほほ・唇がバランス良く動くことで、話すことができます。また、口全体の筋肉を使って表情を作ることもでき、相手に安心感や幸福感を与える『笑顔』は、それらが働かなければ作ることはできません。
しかし、それらの機能も年齢とともに衰えていくのが現状です。思うように動かせず、伝えたいことが伝わらないのは、心に大きなストレスを生み出します。近年では心の負担は身体にも大きな負担を与えると言われ、豊かな心は元気な体を作るために必要な要素です。
コミュニケーションは毎日の生活を豊かにする大切なものです。お口の働きを良好に維持していくことは、心豊かな生活を続けていくうえでも重要と言えるでしょう。
「食べる」「話す」「呼吸する」「表情をつくる」、これら4つの機能は上記で述べたとおり、加齢や疾患で衰えることがあります。重要な4つの機能を良好に維持させていくためにも、口腔ケアは大切です。口腔ケアでは、舌やほほ、唇など口の周りの筋肉をきたえるためのリハビリやマッサージも行います。清潔に、健康的に保つことが口腔ケアの目的のひとつです。
若い世代の方と違い、いろいろな体の機能が低下しているため、高齢者の方の口腔環境には、いくつかの特徴が見られます。
入れ歯・治療あとが多い
人生経験が豊富な高齢者の方。全ての歯が揃っていることは少なく、入れ歯を使っている方が多く見られます。様々な治療による詰め物、被せ物も多いようです。
自浄作用が働かない
口には、清潔を保つ力「自浄作用(じじょうさよう)」があります。自浄作用とは、歯の表面・すき間や、舌・内頬など口の粘膜に付着した汚れや細菌をだ液によって洗い流し、清潔に保つ働きのことを言います。運動障害やまひがあると、口腔機能が十分に働かず、自浄作用も働きにくくなります。特に高齢者の方の場合、知らないうちに自浄作用が低下している方が多いようです。
むし歯・粘膜疾患が増える
高齢者の方のむし歯は、特定の部分にできやすくなる傾向があります。
例えば、歯ぐきが下がることでできる歯の根の部分のむし歯、詰め物・被せ物の中にできる隠れたむし歯などです。自浄作用が衰えるせいで、本来、だ液などで洗い流されるはずの食べかすや細菌が口腔内で増殖し、むし歯や歯周病を招くことになります。また、加齢により抵抗力が落ちることで、歯周病や粘膜疾患にかかりやすくなることも原因のひとつです。
粘膜疾患とは口腔内のほほ・あご・舌などに発症する疾患のことで、口内炎や義歯性腫瘍などがそれにあたります。
食べものが口の中に残る
高齢者の方の多くは、だ液の分泌量が十分ではなく口腔内は乾燥しがちです。口腔内が潤っていないと、ちゃんと飲み込めなかったり、食べかすを洗い流せなかったりと、食べたものが残留しやすくなります。
高齢者の方の中には、飲みこむ力が低下している方も多く、食事をきざみ食にしたり、とろみをつけて召し上がる方もいらっしゃいます。きざみ食は食べ物が細かく、歯のすき間や口腔内に食べかすが残りやすくなります。ペースト食はねばりけが強く乾燥した口のなかでは、きれいに飲みこみきれないこともあります。
こうしたことで、食べかすが残ったままになっていると、口腔内が不衛生になり、むし歯や歯周病も悪化してしまいます。
お口が乾燥する
年齢を重ねるごとに、だ液の分泌量は減少します。高齢になり薬を服用するようになると、副作用で更に分泌量が減少し、乾燥してしまいます。そのため、本来だ液が担うべき重要な機能が働かず、噛む・飲み込む・発声するといったことが、スムーズにできなくなってします。また、乾燥することで入れ歯が痛くて入れられないなどの症状も現われます。
こういった高齢者の方特有の症状から日常生活にも、下記のような変化が見られることがあります。
- ●食べこぼす・むせる
- ●うがいができない
- ●口臭がきつい
- ●口が渇く
- ●歯磨きができない、しない
- ●話をする機会がない・人と関わらない
- ●笑わない
- ●表情がない
- ●転びやすい
- ●微熱が続く
これらは、口腔機能が低下しているサインの一部です。
まずは歯科医師や歯科衛生士へ相談することをおすすめします。